神経免疫研究班
神経免疫疾患は、「疾患を治す」時代から、患者さんの「充実したQOL」を目指す時代へ!
清水 優子
メンバー
清水優子、池口亮太郎、小嶋暖加、宗 勇人
研究資金
厚生労働科学研究費:神経免疫疾患のエビデンスによる診断基準・重症度分類・ガイドラインの妥当性と患者QOLの検証(主幹:金沢医大 神経内科)
厚生労働科学研究費:視神経脊髄炎の再発に対するリツキシマブの有用性を検証する第2/3相 多施設共同プラセボ対照無作為化試験(主幹:宇多野病院 神経内科)(~2019年3月)
厚生労働省難治性疾患補助金:難病研究資源バンクへの多発性硬化症患者の生体試料提供(主幹:九州大学 神経内科)(~2017年3月)
免疫機構は、私たちが生きるためにウイルスや細菌やストレスといった外敵から身を守る重要なシステムです。当研究班が扱う免疫性神経疾患は、神経免疫メカニズムが「勘違い」を起こし、自分の神経を自分で攻撃してしまうために起こります。したがって、免疫疾患の原因解明は、「免疫システム自体=生命の仕組み」を研究することにつながっています。
私たちが生きていくための「要:かなめ」である「免疫」を研究することは、私たちの身体が守られている仕組みや、進化のメカニズムに迫ることにつながります。神経免疫疾患の研究とは、「免疫バランス」の勉強です。攻撃システムと防御システムのバランスが均衡していれば健康なのですが、そのバランスが崩れてしまうと病気(疾患)がおきてしまいます。バランスを崩す因子を見つけて、それをいかに抑え、免疫を均衡にすればいいのか、を探求する学問です。これらはとても興味深く、未知の部分がたくさんありますから、研究を進めるうちにさらにおもしろさが増してくるでしょう。われわれの研究は、日々の「患者さんを診る」ことから生まれた疑問が出発点になっており、他施設共同研究も含め、研究結果が日常臨床に反映されることが特徴です。
当科での免疫性神経疾患の3大疾患は、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMOSD)、重症筋無力症(MG)です。いずれも男性よりも女性の患者さんが多く、当科には全国から神経免疫疾患の患者さんがセカンドオピニオンも含め紹介・来院されています。特に女性の患者さんは、妊娠・出産というライフスタイルのなかで、いかに疾患をコントロールしてゆくのかは、ファミリープラン、家庭生活、育児、そして昨今課題になっている女性のキャリアアップも含め、疾患をどう向き合っていくのか、大きな「分岐点」になります。当科ではこれまでの経験を活かし、患者さんに合わせたきめ細やかな診療を心掛け、当院の臨床経験豊富な産婦人科、小児科と連携し、たくさんの患者さんが新しい家族を迎えられておられます。お子さんと一緒に受診される患者さんにお会いすると、大変うれしいです。また、就労・就学に関しても、希望の学校・会社に合格した、職業に就けた、というお話を伺うと、私たちもとても充実した気持ちになります。 日本でも現在MSの疾患修飾薬5種類(6製剤)の治療が可能になりました。そして、MSもNMOSDも、新薬が期待されており、患者さん各々のライフスタイルに合わせた治療が選択できるようになりました。 MGの治療はステロイドや胸腺摘出術が主流でしたが、免疫抑制剤に加え、遺伝子組換えヒト化モノクローナル抗体が保険適応になり、さらに治療の幅が広がりました。そしてステロイドの減量、中止が可能になり、患者さんのQOLが改善しています。
当科は、免疫性神経疾患関連の治験の担当施設になっています。治療困難な免疫性神経疾患の患者さんには、速やかに血液浄化療法(免疫吸着、二重膜濾過法、血漿交換療法:ギランバレー症候群、フィッシャー症候群、治療抵抗性MS、NMOSD,MG,自己免疫関連性脳炎など)が施行できます。日常生活だけではなく、就学・就労においても患者さんが満足できるよう、最適な治療を提供しています。 神経免疫疾患の治療は目覚まし進歩を遂げ、いまや、「疾患を治す」時代から、「充実したQOL」を目指す時代になりました。患者さんとともに、希望をもって診療に邁進してまいりたいと思います。
研究内容
- フローサイトメータを用いた免疫性神経疾患における末梢血・髄液中のTh1,Th2、Th17、調節性T細胞、自然リンパ球の表面マーカーの発現に関する研究
- 免疫性神経疾患における血清・血清中のサイトカイン、ケモカイン、各種炎症性バイオマーカ―の研究
- 脳腫瘍・MS・NMOSD・腫瘍様脱髄疾患の画像、病理学的、免疫学的鑑別診断に関する研究
- 免疫性神経疾患における妊娠・出産における免疫病態機能の研究
- 免疫性神経筋疾患の薬剤抵抗性に関する研究
当科ではMS、NMOSDなど中枢性炎症性脱髄性疾患の病態解明のため、フローサイトメトリーを用い、リンパ球上の病原性接着因子の発現に関する研究を行っております。妊娠・出産に関連した再発リスクとそれに伴う免疫機能の変化に関する研究を継続しております。 そして、神経膠腫をはじめとした脳腫瘍の患者数が非常に多く、脳腫瘍の疑いで受診したけれど、検査の結果、中枢性炎症性脱髄性疾患で当科へ紹介、という患者さんも少なくありません。したがって、このような患者さんの診断精度を上げ、より早く適切な治療を受けていただくため、鑑別診断にも力を注いでいます。脳外科、放射線診断学教室、病理学教室と連携し、脳腫瘍と中枢性脱髄性疾患の臨床に関する研究論文を発表しています。重症筋無力症(MG)に関しては、視神経脊髄炎との合併や、ニボルマブ関連性MGなど、国内外の学会で積極的に発表しています。