脳卒中研究班
内科的側面からの
脳卒中克服を目指して
北川一夫
メンバー
北川一夫、遠井素乃、白井優香、星野岳郎、石塚健太郎、関美沙(大学院生)、樋口瑛子(大学院生)、細谷愛(医療錬士)、福嶋直弥(医療錬士)、斎藤萌子(大学院生)、山崎昌子(非常勤講師)
研究資金
文部科学省科学研究費基盤研究(B)平成27年度―30年度 総額1589万円等
長寿医療研究開発費(28-15) 高齢者における認知症や脳血管障害の発症に脳小血管病が関与する臨床的意義の解明 分担研究等
当教室の脳卒中研究班は、前任の主任教授の内山真一郎先生が国内外の脳卒中関連の学会でご活躍され 日本脳卒中学会総会、アジア太平洋脳卒中学会等 主要な学会長を務められた教室の主要な研究班です。また2019年3月には北川が第44回日本脳卒中学会総会学術集会大会長を務めました。脳卒中は現在でも我が国の死因の第4位、毎年12万人の方が亡くなられている国民病ですが、近年血栓溶解療法 局所血栓回収療法の進歩により診療の質は目覚ましく向上しています。本研究班では、臨床的 基礎的側面から脳梗塞の発症、病態に迫る研究を展開中です。臨床研究では、塞栓源不明の脳梗塞(Embolic Stroke of Undetermined Sources: ESUS)の病態解明のため、1週間長時間ホルター心電図、経食道心エコー検査、血管内皮機能検査、経頭蓋超音波ドプラ血流検査等多側面からの臨床研究を実施中です。先進治療として脳梗塞急性期患者に対する細胞治療も臨床治験で行っています。神経超音波学、血栓止血学を駆使した脳卒中臨床研究は本研究班の看板です。また今後益々増加することが予想される無症候性脳梗塞、微小出血、白質病変を対象とした前向きコホート研究 TWMU CVD(SVD)研究を開始しすでに1000名の患者さんを前向きに登録し、研究成果を出しつつあります。脳卒中臨床研究に当科の特徴である認知機能検査、運動機能、神経超音波検査を交えて総合的な脳小血管病に関する臨床研究を行います。
臨床研究の面白さは、得られた結果がすぐに目の前の患者さんに還元できることです。しかし、虚血に伴う脳損傷の病態生理の根本的な解明には動物基礎実験が欠かせません。私は、これまで砂ネズミ、マウス、ラットの虚血モデルに取り組み、脳にも自己防衛的な防御反応が備わっていることを明らかにしました。その典型例は虚血耐性という現象ですが、前もって軽度の虚血負荷を加えてストレスをかけておくと、次に加わる重度の虚血侵襲に神経細胞が抵抗して生存するという現象ですが、本現象にストレスタンパク質、転写因子CREB活性化を介した遺伝子発現が関与していることを明らかにしてきました。本現象はすぐには臨床現場に還元できませんが、虚血耐性現象の延長線として、最近米国では脳卒中患者さんに間歇的に虚血負荷を加える遠隔虚血負荷により脳保護を誘導しようという試みもなされています。当研究班でも、科研費基盤研究Bの支援を受けて遠隔虚血負荷による脳梗塞治療手段の開発に関する基礎研究を開始しすでに一部の成果を発表しつつあります(Kitagawa K et al., J Stroke Cerebrovas Dis 2018;27:831-838)。また臨床での脳梗塞診断に欠かせないMRI DWI画像についてもマウスで撮影可能としすでに虚血急性期病変への側副血行発達の関連について明らかにしています(Saito M et al., J Neuroscience Res 2019, in press)。基礎研究では、自分で病態の本質を探究するという面白さがあり。若い先生方には一度基礎研究にチャレンジすることをお勧めしたいと思います。幅広い視点から脳卒中診療を見つめることのできる研究班に育てていきたいと思います。