末梢神経・筋研究班
メンバー
小林正樹、鈴木美紀、松島崇子、森本伶美
末梢神経疾患や筋疾患は、他の神経疾患と同様に、最近新たな診断技術、疾患概念や治療法が明らかとなり、治療の選択肢が広がり、その効果や予後が期待できるようになってきました。患者さんを詳しく診察させて頂くことや検査から診断に至り、患者さんと結果を共有することで治療や日常生活動作などの改善に結び付けていくことを目標にしています。
臨床面
対象となる疾患:慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、ギラン・バレー症候群(GBS)、
炎症性筋疾患(多発筋炎、壊死性ミオパチーなど)など
◇末梢神経疾患領域
依然として、未知の領域も多いですが、免疫性ニューロパチーを中心に治療は少しずつ進歩しています。いかにして患者さんの生活にあった、QOLの向上のために最適な治療をすすめていけるかに注力しています。具体的には、神経診察による病巣診断と時間軸を組み合わせたアプローチで診断に迫り、検査を組み合わせて病態を推測していきます。診察や神経生理検査(末梢神経伝導検査、体性感覚誘発電図)、画像検査(MR Neurographyなど)など大学病院ならではのアプローチで診断に迫っていきます。神経生検による組織学的な検索も、必要な場合は積極的に行っています。侵襲的検査ですが、病状の把握や病態の解明に最も近いアプローチとして、できる限り確定診断に結び付けられるよう努力しています。過去のノウハウを生かし、新しい知見の蓄積と、より的確な治療をめざします。
◇筋疾患領域
炎症性筋疾患(各種の筋炎)やミオパチーなどの症例をおもに経験します。筋炎の中には,皮膚症状を伴うものや他の臓器症状を伴うものがあり、リウマチ・膠原病内科や皮膚科の先生方とも連携して診療にあたっています。各科に連携できるスペシャリストが在籍する大学病院だからこそ経験できる症例も稀ではありません。また筋炎やミオパチーの中には、筋生検が診断に決定的な役割を果たす場合も少なくありません。ミトコンドリア異常に伴うミオパチーはその1例で、糖尿病内科(センター)の先生方とzも連携して、診療にあたっています。
神経・筋生検
当グループの重要な役割のひとつである神経・筋生検は当科の入院症例以外にも、学内各科や関連病院とも連携し、神経・筋生検に出向することもあります。他施設で採取された検体を当科で処理、病理診断をして臨床診断にも貢献しています。丁寧な生検手技を習得すること、固定方法を知り、適切な評価手法を組み合わせて、病理診断まで可能となるような体制づくりを目指しています。
各診療科との連携
腎臓移植後、透析患者さんや糖尿病患者さんのニューロパチー、心臓疾患の患者さんの骨格筋の障害、など全身の病気と関連した多彩な症例が診療・検査を行っています。膠原病に関連したニューロパチー・ミオパチー、ミトコンドリア異常症などの症例も多く経験することとなります。がん治療の進歩に伴い、免疫チェックポイント阻害薬関連の神経・筋疾患の患者さんの経験も増えています。
研究面
◇多彩な症例を経験できるメリットを生かした臨床研究
症例発表やケースシリーズなどを通して、疾患の本質に迫り、治療方針や予後の予測などに有用な知見を得るべく探求を行っております。脱髄性ニューロパチーの治療経験などを積極的に発信しています。
◇生検組織標本を利用した形態学的なアプローチからの研究
末梢神経・筋生検検体の光学顕微鏡・電子顕微鏡、免疫組織化学を用いた検討を行っています。神経生理部門も充実していますので、脱髄性ニューロパチーの神経生理検査と病理学的特徴の対比や、血管炎性ニューロパチー、M蛋白血症性ニューロパチーの免疫組織学的検討などを行い、国内および海外の学会で積極的に発表しています。
おわりに
日ごろの研究は地道です。患者さんを診察する時も、一人ひとり丁寧に、頭の先から足の先まで注意深く診察する日々の積み重ねの中から、気になることを突き詰めていくことで成果につながるのが末梢神経・筋疾患の研究なのです。
業績
1) Kobayashi M, et al. Demyelinating neuropathy requires differential diagnosis with vasculitic neuropathy in rheumatoid arthritis: Significance of sural nerve electrophysiology findings. Clinical and Experimental Neuroimmunology 2022. doi.org/10.1111/cen3.12694