脳卒中研究班
内科的側面からの
脳卒中克服を目指して
藤堂謙一
メンバー
藤堂謙一(教授・基幹分野長)、遠井素乃(講師)、星野岳郎(講師)、関美沙(助教)、樋口瑛子(助教)、細谷愛(助教)、新井里子(助教)、水野貴文(助教)、山岸沙衣(大学院生)、髙橋駿太郎(後期研修医)、若生翔(後期研修医)、石塚健太郎、白井優香、北川一夫
研究資金
文部科学省科学研究費基盤研究(B)2015-2018年 1589万円
長寿医療研究開発費(28-15) 高齢者における認知症や脳血管障害の発症に脳小血管病が関与する臨床的意義の解明 分担研究
文部科学省科学研究費(若手研究)2018-2021年 403万円
文部科学省科学研究費基盤研究(C)2019-2022年 416万円
文部科学省科学研究費基盤研究(C)2020-2024年度(延長) 429万円
文部科学省科学研究費基盤研究(C)2022-2024年 403万円
文部科学省科学研究費基盤研究(C)2024-2026年度 468万円
佐竹高子研究奨励金 2023-2024年 60万円 等
脳卒中研究班は当教室の主要な研究班です。前々教授の内山真一郎先生は2011年の日本脳卒中学会総会、2012年のアジア太平洋脳卒中学会等、国内外の主要な学会の大会長を務められました。また2019年には前教授の北川一夫先生が第44回日本脳卒中学会総会学術集会の大会長を務められました。そして、2024年6月より藤堂謙一先生が教授・基幹分野長に就任しています。
当院は日本脳卒中学会指定の「一次脳卒中センター(Primary Stroke Center:PSC)コア」の認定を受けており、24時間365日体制で急性期脳梗塞に対するアルテプラーゼ(t-PA)静注療法、カテーテルによる血栓回収療法を行っています。2019年には、脳卒中集中治療に特化したStroke Care Unit(SCU:病床数 9)が設立され、質の高い脳卒中医療を提供しています。当科は脳神経外科と協力して血栓回収療法やステント留置術などを中心としたカテーテル治療に積極的に取り組んでおり、専門医取得に向けた修練が可能です。また、頚動脈超音波、経食道心臓超音波、経頭蓋超音波などの超音波検査も当科の医師が行っています。当科では、超急性期治療から、病態に迫る診断検査、慢性期の再発予防まで、切れ目のない包括的なマネジメントを実践しており、脳梗塞診療のあらゆる局面を学ぶことができます。また、国内・国外(アメリカ、フランスなど)への留学実績もあり、個人の希望や熱意に応じて様々なキャリア選択が可能となっています。
当研究班では、臨床的、基礎的側面から脳梗塞の発症、病態に迫る研究を展開中です。臨床研究では、当科の脳梗塞患者全例を登録する前向きコホート研究TWMU Stroke Registryを継続しており、その研究成果はこれまでStroke誌、Neurology誌などの英文誌に多数発表されています。さらに、無症候性脳梗塞、微小出血、白質病変を対象とした前向きコホート研究TWMU SVD Registryでは、1000名以上の慢性期脳梗塞患者を前向きに登録・追跡しています。脳卒中に認知機能検査、運動機能、神経超音波検査、電気生理検査などを交えた総合的な脳小血管病に関する臨床研究であり、その研究成果は既にHypertension Research誌やCerebrovascular Diseases誌などの英文誌で発表されています。また塞栓源不明の脳梗塞(ESUS)の病態解明のため、1週間長時間ホルター心電図、経食道心エコー検査、血管内皮機能検査、経頭蓋超音波ドプラ血流検査等多側面からの臨床研究を実施中です。その他、先進治療として脳梗塞急性期患者に対する細胞治療の臨床治験で行っているほか、新規抗血栓療法や心房細動に対するアブレーション治療など、多くの大規模臨床試験に協力施設としても参画しています。
臨床研究の面白さは、得られた結果がすぐに目の前の患者さんに還元できることです。しかし、虚血に伴う脳損傷の病態生理の根本的な解明には動物基礎実験が欠かせません。これまで砂ネズミ、マウス、ラットなどの虚血モデルにおいて、脳にも自己防衛的な防御反応が備わっていることが明らかになっています。その一例が「虚血耐性」と呼ばれる現象で、前もって軽度の虚血負荷を加えてストレスをかけておくと、次に加わる重度の虚血侵襲に神経細胞が抵抗して生存するというものです。我々は、科研費基盤研究などの支援を受けて、本現象にストレスタンパク質、転写因子CREB活性化を介した遺伝子発現が関与していること、側復血行路の発達を介して脳梗塞を軽減することを、動物モデルを用いて明らかにしてきました。さらには、こうした基礎実験における成果を経て、ヒトを対象とした多施設共同RCT「脳梗塞急性期に対する遠隔虚血コンディショニングの有効性を検証する他施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験:RICAIS」を主催し、全国の脳卒中センター12施設の協力を仰いで、2022年より患者登録を開始しています。基礎研究では、自分で病態の本質を探究するという面白さがあり、さらにはその成果を臨床試験に発展させられるのは大学病院ならではの醍醐味です。若い先生方には是非一度基礎研究にチャレンジすることをお勧めしたいと思います。